チビ・ゆきのルイージの小説外伝

ルイージの小説外伝の置き場

ルイージの小説 試し書き シルク目線

キノコタウンの一角いある建物の前、彼は突っ立っていた。キノコの形をした建物がひしめく中で、その建物だけは縦に長い長方形だった。キノコ王国の外観を壊さないよう、キノコの柄の部分と同じ、白色のペンキで塗られている。最上階である四階だけは特別に赤の下地に白色のまだら模様だ。そして二階の窓には何かを消したような跡が残っている。そんな建物を夢中になって見つめる彼。噂には聞いた事がある。その噂を聞きつけて私はここまできた。建物に夢中になる彼に、私は声をかけた。

「あなた、ルイージ?」

建物に夢中になっていて気付かなかっただろう彼は、慌てて右に顔を向けた。一瞬、彼が驚いたような顔でこちらを見て目を開く。すぐに間違いだと認識したのかすぐに元に戻ったが、しかし…。

「噂以上にひょろひょろしてるのね」

率直に思った事を口走った。昔からの私の悪い癖だ、毒舌家で素直に率直に何でもズバズバ言ってしまう。直さなければと思いつつ、兄にもそれはお前の個性だからと言われ別に無理に直す事もないだろうとあまり努力はしていない。……いや、流石に目上の人には気をつけたほうが良いわね。

「初対面の人を『ひょろひょろ』呼ばわり、か」

苦笑しながら彼が言う。確かに、初対面の人を『ひょろひょろ』と呼ばわり悪口を並べ立てる人など私ぐらいしかいないだろう。

「本当のことでしょ?」

こちらが目付き悪くそう容赦ない言葉を言うと、彼はしばし立ち尽くし、そして鼻を鳴らした。

「確かにひょろひょろだ。」

少し、自虐的に言う彼にムッとしてしまった私は、見下すような眼で彼を睨んでしまった。まぁ、どちらかというと身長的には彼が私を見下ろしているのだが。

「君の名前は?」

「シルク」

名前の問いに、つまらなさそうに無表情にしかもぶっきらぼうに答えた。彼は慣れているのか苦笑して言葉を続ける。

「何で話しかけたの?」

「『猫の手』に入社しに来た」

そう言って私は建物の二階の窓を指差した。そう、この建物は『猫の手』と呼ばれる派遣会社の本部だ。依頼者がこの会社に依頼し、社員が依頼を遂行する。土管を直してくださいという日常的な依頼から、ピーチ姫救出をはじめとする無理難題を平然とこなすのがこの会社の魅力だった。要するに赤い英雄の代わり。
彼は私に呟いた。

「じゃあ、こっちに来て。」

社内に入るとまず受け付け用のカウンターがあった、太陽光が部屋の中に差し込み宙に舞う埃を映し出す。歩くたびに床から白い煙が舞った。何故ここまでこんなに汚れているのか、しかも中には私達を除いて誰もいない。しんと静まり返っている。外の町の騒ぎは一切聞こえてこない。まるで夜だったらテレサでも出てきそうな雰囲気。ここ、派遣会社なんじゃなかったの?彼はカウンターの中へ入り、引き出しの中から社員の登録用紙を取り出し、埃を払い私に渡した。一通り項目を書くらしい。さらさらと書いて彼に手渡す。

「戦闘技能試験希望でいいかな?」

その呟きに、私はただ静かにうなずいた。
 

町はずれにあるだだっ広い空き地、ここが訓練場らしい。普段は公園として使われているのか、砂はよく整備されていた。準備を整えた私達は数メートル離れて向かい合っていた。
彼の緑色の帽子が太陽光を浴び、より一層目元を暗く陰気にさせていた。

「行くよ?」

彼呟きに私はやはり無言でうなずいた。
彼は左手を天に掲げた。何かを集中させ、小規模の雷を発生させる。そして走り幅跳びの要領で一気に間合いを詰めてきた。
 
≪サンダーハンド≫
 
彼の掲げた左手は私の腕によって跳ね返される。驚いたらしい、彼はとっさに後ろにジャンプした。そりゃそうだろう。私の右腕が剣に変化したのだから。その直後に彼のいた場所に鋭い斬光を走らせた。攻撃が外れたとわかった私は宙を舞いながら腕をハンマーに変化させる。上から思いっきりハンマーをぶつけてくると予想したのだろう、彼はさらに後退した。思惑通りだ。私は彼を飛び越える形で後ろに着地、無防備な彼の背中に思いっきり右手をたたきつけた。

その時、前髪がぱさりと揺れた。今更どうでも良いが、多分見られてしまっただろう。私の右目、左目とは対照的に赤く輝く、その右目を。
 

「合格だ。」

彼は私に社員証を渡しながら言った。私は思わず驚きのまなざしをこちらに向けてしまった。もちろん、試験に合格したから驚いているのではない。さっき彼は試験中に三十分間くらいずっと私のハンマーをもらっていたのにもかかわらず、平然と息も切らさず会話しているから。まぁ、彼だって社員だ。日ごろの訓練のたまものなのだろう。…まぁどうせ、耐えられるからといって痛くないわけではないのだろうが。口をついてまたもや毒舌が出てしまった。

「デクノ坊のうえに鈍感ね」

「君はもっと人を気遣うべきだ」

私は思わず舌打ちをしてから無表情に戻る。無口で最低限しかしゃべらない。口を開くときは大半が彼への毒舌。それが普段の私だ。これが元々の性格なのだから仕方ない。これをいうと恥ずかしいのだが、実は人見知りなだけだ。ツンデレ、とはよく言われるがそれは認めたくない。
それにしても気になってしまう会社の有様。

「このボロ屋、いつから掃除してないの?」

「二年前」

自分でも初めて会話らしい会話をしたような気がする。それにしても二年前から掃除をサボっているだなんて…。

「社長さんはよほどキタナイ部屋がお好きなようね」

「行方不明だ」

また悪口を言ってしまった………と思いきや予想だにもしなかった答えが返ってきた。
行方不明……だと?

「え?」

思わず素で声を出してしまった。そんなばかな。ありえない。

「社長は消息不明。どこにいったのか、はたまた生きているのか死んでいるのか、全部わからない」

わからない?消息不明?生死不明?

「じゃあ、『猫の手』は誰が仕切っているの?まさか貴方?」

「いいや。誰も仕切っていない」

 誰も?誰も仕切っていないと?この会社を?

「社員は僕一人。他は全員退社した。」

思わず怒りがこみ上げた。せっかく遥々ここまでやってきたのはごっこ遊びに付き合いに来たわけではない。私は思わず思いを全てぶちあけてしまった。

「はぁ!ばっかじゃないの?たった一人で会社気どり?私はごっこ遊びをしに来たわけじゃないのよ!」

彼は、ため息をついた。

「その通りだ。僕は君が言うような遊びのためにこの場所にいるんじゃない。社長が帰って来た時のために一人でここを守っているんだ。誰かが帰りを待っていなきゃ、あいつが、ルーニャが帰ってこれないだろう!」

彼の怒鳴り声に本気だということが分かる。
少し、自身の気持ちを落ち着けた。
落ち着いて深呼吸をして、もう一度問いた。

「じゃあ、二年も行方不明になっている人が帰ってくるって保証はどこにあるの?」

彼はポケットの中からネームプレートを取り出した。深い緑色。表には『名前:ルーニャ』、裏には『飼い主:ミスターL』と書かれている。それを私にに見せつけた。
珍しく、私の顔がニヤッと笑う。世に言う悪い顔という奴だ。へぇ。

「なるほどね。そう言うこと」

思わずそう呟くと彼が焦ったように言った。

「何か勘違いしてないか?」

「気にしないで、奥手さん」

これから何度彼に、ため息をつかせることになるのだろうか。









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今やっている長編小説の合間にちょこちょこと書き上げてきたものです。
最初、Foolさんのものを見たときは凄く嬉しく舞い上がっていたものでして…是非シルク目線を書きたかったのです。
またこちらでのシルクの容姿も描いてみたいと思います。

お粗末様でした。