チビ・ゆきのルイージの小説外伝

ルイージの小説外伝の置き場

ルイージの小説外伝 短編1

-お化けの宝石-

 

あの事件から一ヶ月後。
特に何があるわけでもなく平穏な日々を僕らは過ごしてきた。

だがしかし、平穏な日々はそう簡単に長く続くものではなかった。

 

 

 

 

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「………ねぇ、これどういう状況なわけ?」

「さぁ…」

二人が途方にくれているのはわけがある。
僕ら三人は迷子の猫探しの依頼に紛争してきたところであった。猫を飼い主に返した後、疲れて帰ってきてルーニャに終わったことを報告しようと扉を開けたのだが………。

「……………………」

「頼む!マジで!!本当ニ!!!困ってるんダヨ!!!」

「いや、とりあえずちょっと落ち着いて欲しいのにゃ」

ルーニャに土下座しながら頼み事をする相手。それは僕がこの世で最も苦手とする相手だった。扉を開いた瞬間、目の前にお化けと猫娘が対峙していたのだ。
そう、僕の苦手な、お化けが。
僕が後ろに一歩下がるとそのお化けは僕の存在を見つけハッとした顔をする。やばいと思って逃げようと思った瞬間だ。

さすがおばけくそはやい。

しゅるりと僕の目の前まで飛んでくると、僕の両手をガッチリ掴んだ。お化けのくせに。
そしてウルウルとした目で僕の目を見つめながら必死に叫び始める。

「るいぃじいぃぃぃー!頼むヨ!!助けテクレ!!!」

やめてくれ、卒倒しそうだ。

「ちょっとキングテレサ、いい加減に泣きやみなさいよ。何があったのよ」

見かねたシルクが溜息をつきながら目の前のお化けに問いかける。
やっと話が出来るとキングテレサはパァっと顔を明るくさせて、シルクの両手を掴んだ。

「よくゾ聞いてくれタ!!!!」

「ウザい、離れろ」

「実はダナ………」

この後、キングテレサから語られる話に衝撃が走る。
ただ、この時僕はまだ知らなかった。
今日という1日が平穏で過ごせなくなるだなんて…。

 


これは、長いながぁい一日の話。

 

 

 

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「はぁ!?屋敷から追い出されたァ!?」

シルクが大声で叫んだ。それはもう、社内中に響くぐらいに。周りの皆が驚いてこちらを見るも、仕事があるのかそそくさと散っていく。見かねたスピネルがしぃ…と口に手を当てると、声を発した当の本人は少しバツの悪い顔をして口をつぐんだ。一連の流れを見ていたキングテレサが、話してもいいかと口を開ける。

「そうだヨ……追い出されたちまッタんだよ……」

「どうしてそんなことになったんだい?」

「…………」

僕がそう聞くと、何故かキングテレサは黙る。先程までの饒舌が嘘のようだ。表情を見る限り、なんと言えばいいのか分からないようにも見える。スピネルと僕が顔を見合わせ困っていると、シルクが大きくため息をついた。

「………行ってみるしかなさそうね」

「え」

思わず僕は固まる。
行ってみる。それ即ちキングテレサの屋敷に直接様子を見に行くということだろう。

あの、キングテレサの、お化け大量の、屋敷に、直接、出向く。

………シルク…君ってやつは…。

「無理に決まってるだろう」

「あいっかわらずビビりね、このチキンが」

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無理だと言えば予想通りの毒舌が帰ってきた。会った当初よりはマシになったと思っていたのだが気のせいだったようだ。そういえば前もこんな展開あった気がする。ライレイといい、あの悪霊を操る女といい、キングテレサといい、何故こうも僕はお化けに寄り付かれるのか。

「い、行って、くれるノカ!?ありがたいゼ!」

キングテレサは感激した様子でシルクを見つめる。シルクも満更ではなさそうだ。
そういえば…キングテレサってこんなユーモア溢れる奴だったっけ。もっと不気味な感じだった気がするんだけど…もしかしてそれほどまでに切羽詰まっているのだろうか…。
…考えていても仕方が無い、腹を括らなければ。

「…ルーニャ、少し行ってくるよ」

「了解だにゃ!気を付けて行くのにゃー」

「スピネルは先に家に帰って、留守番しておいてくれるかな?」

「ん…任せて。気を付けて、いってらっしゃい」

ルーニャはやれやれと言った様子で、スピネルは少し心配した様子で返してくれる。
こうして僕らはキングテレサに連れられて、キングテレサの住んでいるお屋敷へと向かったのであった。

 

 

 

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「これは……」

「追い出されたと言うよりは………」

「…………」

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おどろおどろしいテレサの森を抜けた先にある、キングテレサの屋敷。僕らはキングテレサに連れられてそこにやって来た。途中テレサと出くわしたりなんたりで色々あったが、そこはまぁお察しの通りなので省略させてもらおう。
そんなことよりも、重要なのは僕らが今唖然として見ているこの屋敷だ。一見、電気が全て消え、部屋中真っ暗になっているため余計おどろおどろしく見えるだけのただの屋敷なのだが…。その窓一つ一つをよく見てみると違和感があるのだ。それもそのはず。窓をじっと見ると何かがウゴウゴと蠢いている様子がわかるのだ。そう、屋敷の中で、窓に張り付き蠢いているのだ。得体の知れない何かが。
それだけでも怖いのに、さらに良く見ると何かが黄色く光っているのだ。

それは、無数の目だった。

察しの良い皆様ならもう屋敷の中に蔓延るものの正体がわかったであろう。

 

 

……そう。

 

『もあもあーっ!!』


無数の、モアモアだ。

 

「どーなってんの、あれ」

シルクが依然として変わらぬ表情で屋敷を指さす。モアモアはもはや屋敷全体に蔓延っているらしく、玄関からはみ出ている者もいる。キングテレサに寄るとこのモアモア達はつい先日数匹見かけたのが大増殖した結果らしい。キングテレサテレサ達は先日の数匹がこんなに増殖するとは思ってなかったらしく、放置していたそうだ。
そして夕方、ガサゴソという音に目を開けると、もう目の前は地獄絵図だったらしい。大慌てで屋敷の外へ飛び出て、涙目で猫の手に駆けつけたそうだ。
よく冷静に猫の手に駆け込んでくれたよ、僕だったら一回気絶してる。

「アイツらどうにか出来ねーカ?」

「うーん…どうする、ルイージ?」

シルクが困ったように僕を見る。魔法でどうにか出来ればいいのだが、なにせ状況は屋敷を人質の様に取られているのが問題だ。迂闊に荒療治は出来ない。魔法で一掃、というのは不可能そうだ。

「何か…道があれば……」

別の道……魔法やフラワーパワーを使わない道……。何かあるだろうか…。こうしている間にもモアモアは増殖を続け屋敷を飲み込もうとしている。
…待てよ?そもそもモアモアは何処から来たんだ?随分前に兄さんと対峙した時は魔女が放っていたというのを聞いたことがある。
もしかして今回もモアモアを放った何かが居るんじゃないのか?そこまで思って周りを見渡す。近場、森の木の影。揺れ動く影はそこにあった。

「えっと…出ておいで。怒らないから」

僕の言葉にキングテレサとシルクはキョトンとしてあたりを見渡す、するととある木の影から人影そのものが出てきた。二人がその様子にギョッとした顔をするも、その人影の正体がわかったのかすぐにハッとした表情に変わる。

「どうしてモアモアを出現させたんだい?ビビアン」

「ご、ごめんなさぁ〜い!!」

帽子を被り女の子のような髪型をしたその影、ビビアンは僕らに頭を深々と下げた。影三姉弟の末っ子、ビビアン。彼女…いや、彼も長女、次女と同じく魔法を操る種族だ。今回モアモアを出現させたのはこのビビアンだろう。

「森で密かに魔法の特訓をしていたら……誤ってモアモアを出現させてしまったの。2~3匹だけだったから大丈夫かと思ったんだけど……」

「こんなに増殖しちゃったのか……元に戻すのは難しそうかな?」

「この量は…かなり………。ご、ごめんなさぁい…!」

ビビアンは深く反省しているのかしょんぼりとした顔つきで何度も謝る。しかし、この量を戻すのが無理となるとやはり大本を潰すしかない。そうなると………。

「モアモアを一度外に出してから、大本を叩かなきゃいけないわね………」

「でも玄関開けたらもう溢れだしそうダゼ、ドウすんだ?」

「ううーん…」

皆で頭を抱えていると嫌な音が響く。

ビシッ…ビキッ……バキッッ。

何かが折れた音に、屋敷の方を恐る恐る見る。

「あ」

…とシルクが声を上げた瞬間だった。
屋敷の扉が音を立てて弾き飛んだ。中からはワッとモアモアたちが飛び出す。
構えた時にはもう遅くこちらに向かうモアモア達に呆気に取られながら飲み込まれた。

 

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「………っ……!」

ハッと目が覚める。気を失う前までの喧騒はどこへやら、何があったのかあたりは静かになっていた。周りには同じく気を失っているキングテレサやシルクがいる。はて、ビビアンは何処へ…?キョロキョロとあたりを見回してもビビアンの姿はなく、それどころかモアモアの一匹も見かけない。
まさかあれは夢…?

「おーい!大丈夫かにゃー!?」

遠くから響く声、そちらの方に振り向くと見えた見慣れたその姿に安堵しながら立ち上がる。ルーニャだ。

「一応、大丈夫だ。ルーニャこそどうしたんだ?」

息切れしながら大慌てで駆けつける彼女に、もしや何かあったのではないかという不安に駆られ尋ねる。すると案の定興奮した様子で僕に用件を伝え始めた。

「な、なんか、凄いもあもあした大群が、城下町にいっぱい蔓延ってるのにゃ!アタシ達だけじゃ対処しきれない量なのにゃ〜!ビビアンちゃんも流石に戻すのは難しいって泣いちゃうし…!」

あぁモアモアよ……僕らを踏みつけて行った先は城下町だったのか…。そしてビビアンは影に隠れて避け、追いかけたと…。そうか、なるほど、分かったよ。

大問題に発展してるじゃないか…!!!

「シルク!キングテレサ!起きるんだ!!」

「ふぁっ!?もあもあしてない!?真っ黒どこ!?」

「ウガッ!?」

シルクはぶんぶんと首を振り当たりを見回しながら、キングテレサは驚いたようにバッチリと目を開けた。二人共現在の状況を確認すると、声を掛けたであろう僕の方に振り向く。僕はそんな2人に今の現状を伝えた。

「え、ちょ、それどーすんのよ」

シルクの最もな問いかけに天を仰ぎ考え込んでみせる。そもそもあの大群にどう始末をつければ良いものやら。

「いやはや大変そうだねぇ」

「あぁ、本当に大変だよ。こんな大量のモアモア、どうすれば始末できるんだ…」

「次元ワザでどっかの空間に一気に移動させちゃえば楽チンなんじゃないかなぁ〜♪」

それもそうだ!…だが次元ワザを扱えるやつなんてもうこの世には………。

………ん?ちょっと待て。僕は今……、

 

 

誰と話しているんだ???

「( *・ω・)ノやぁ、ルイルイ君♪」

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「……う、ウワァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」

「ちょ、なに!?なにごと!?……って、なにしてんのよ、ディメーン」

突如現れ僕に話しかけてきていたのは、つい一ヶ月前に出会い、お世話になったもう一人のディメーンだった。僕の叫び声に驚いたシルクは、ディメーンを見た瞬間溜息をつきながらディメーンに尋ねる。キングテレサはコイツ誰ダ?的な表情を浮かべているし、ルーニャに限っては…………。

「………なんで、こいつが、ここに、いる、のにゃ…?」

明らかに殺気を放っている、ヤバイ。そういえば一ヶ月前に起こった出来事はルーニャは記憶してないんだった。

「わぁ、こわぁい猫娘さんがいるー。ま、そんなに殺気放ってる場合じゃないんだから!リラックスリラーックス♪」

「なんにゃこいつ、知ってる奴と違うけどやっぱりムカつく奴だにゃ」

「え、なに、僕今回もこんな扱いなの??」

ルーニャを宥めるも逆にムカつかれているディメーン、自業自得だろう。だがしかしここでやいやいと言い合っている場合でないのは確かだ。話を進めなくては。

「ディメーン、次元ワザで異空間に捨てることは本当に可能なのか?」

「可能だよ。次元ワザで宇宙空間に飛ばしちゃえばあとは自動的にチリになってくれるさぁ〜♪」

簡単に言うが…まぁこのディメーンなら信用出来そうだ。問題は…。

「あんな沢山の量、どうやって次元ワザで移動させるんだ?」

「うーん、そこが問題なんだよね。せめて一箇所に固められればいいんだけどー……」

腕を組み悩むディメーン。やはりバラバラの個体を飛ばすのには時間がかかるらしいのか、一箇所にまとめて次元ワザで放り込む方が効率的だということらしい。

「ルイルイくーん、どうにか出来ない?」

「………」

どうにか…出来たらいいんだがなぁ…。

「一纏めになんてどうすれば…」

「オイ」

考えることを諦めようとしたその時だった。今までずっと考え込んでいたキングテレサが口を開けた。

「あ〜……うちのテレサ達、使うカ」

そう提案すると口笛を吹き大量のテレサを呼び寄せる。僕は慌ててルーニャの後ろに隠れた。テレサ達は何処に隠れていたのかというぐらい集まっていて、キングテレサから何かを聞いている。その内一斉に頷くと、城下町に向かって飛び出していった。キングテレサは一連の事が終わるとこちらに向き直り一言。

「ナントカ出来そうダゼ」

と、いつも通りの薄気味悪い笑顔で微笑んだ。

 

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街中、作戦は決行された。


「いいねいいねぇ〜♪これならいけそうだよ」

ディメーンの目の前には無数のテレサ達におしくらまんじゅう状態のモアモア達。
キングテレサの作戦が上手くいったようだ。
まさか、テレサ達を使ってモアモアを集めるとは…怖いけど流石はテレサの王だ。

「さ、モアモア君たち。ぐんない♪」

ぱちんっ、と指を鳴らす。
途端に次元が歪み、目の前のモアモアたちはパッと消えた。

「……お、終わった、か」

「終わったわね」

「任務完了〜♪」

「なんか疲れたにゃ…」

「ダナ……」

「ご、ごめんなさいー!」

何もいなくなった原っぱに、ビビアンの謝る声が響いた。

 

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「意外に呆気なかったなぁ……」

猫の手にそのまま帰った僕は、帰りが遅くなった僕を心配して迎えに来てくれたスピネルと合流し机に突っ伏した。体力の限界だったのだ。

「その割には、疲れてるね」

スピネルの言葉に頷く。ほとんど何もしていないが、大変なことがありすぎて体がついていけていないのだ。それだけで、人間こうも疲れるものなのか…。

「ルーニャはどうしたの?」

あたりをキョロキョロし、先程まで居たはずのルーニャを気にかける。そういえば、見当たらないな。

「依頼かもしくは…散歩にでも行ったんじゃないのか?」

「そっか………」


何かが気になるようだが、いない人の事を考えていても仕方はない。とにかく今日は疲れた…。帰ってご飯食べて寝たいなぁ…。

ルイージ、疲れてるね。そろそろ帰ろう?」

小さな微笑みに、僕は頷きを返して立ち上がった。

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-End-