チビ・ゆきのルイージの小説外伝

ルイージの小説外伝の置き場

ルイージの小説外伝3 第二話

全くもって解せない。行く宛のなさそうなこの子を社員としてここに住まわせようまでは分からないでもない。まぁ、可哀想だし。けど…

「何故戦闘相手が私なのか」

「手加減してあげてにゃ」

「そう思うなら尚更なぜ私なのか!!」

これでも社員の中では強者の部類に入るであろうと自負している私に、何故新人の相手を任せようと考えたのか。まぁ目の前に居たからだろうけど。せめて緑のとかで良いじゃない。なんで私なのよ。

「あのねぇ、テストだからって私手加減なんてしないわよ?」

「えー?そこをにゃんとか…」

「嫌よ、私のプライドが許さない」

「相変わらずだにゃ」

ルーニャの呆れたような声にふんっ、と顔を逸らす。当たり前だ。私は由緒正しき魔女なのだ。仮にテストだからって本気で来る相手に対し手加減なんてしたくない。というより手加減なんてしたらむず痒くなってしまう。特にあの少年。少しなよっとした所があの男にそっくりなのだ。余計に加虐精神が煽られてしまう。

「寧ろ本気出したいぐらい」

「にゃ、にゃにがシルクをそこまでさせるのにゃ…!?」

「とりあえず…頃合いを見て止めてよね?私やり始めたら止まれる気しないから」

ルイージ呼んでくるにゃ?」

「あれに、私が、止められるとでも?」

「私、頑張るにゃ」

あの男に止められるなんて冗談。だったらルーニャの方がマシ。二人でそんなことを言い合いながら予定の場所に着くと、ルノは先に準備して待っていたのかいつでも大丈夫だと言うふうに頷いてくる。怪我しても知らないからね、と忠告しながら私はつい癖で肩に乗った髪を退けようとしてしまう。そういえば最近邪魔になって髪を切ったのだった、うっかりうっかり。こほんっと一つ咳払いをし、構え直す。

「では、試験開始にゃっ!」

ルーニャの合図でルノが飛び出してくる。素人臭い真正面からの拳は私が魔法を使わなくとも避けられる程度のものだった。スキありと、右手を刃に変えルノの頬に切れ込みを入れてやると、そこから血が流れ始める。

「………なんにゃ…?」

「!!」

ルノの頬から流れた血が地面に落ちるより前に、その血は蛇のようにうねり剣のようなものを形作ってみせた。少し経って血が止まると剣はルノの体から完全に分離し、血の剣と変貌した。

「液体変化魔法…もしくはそういう体質…」

と少し思考を挟んだ瞬間、私の頬に切れ込みが入る。ルノの方を見ると赤い目が僅かに光を帯びている。帽子からはみ出た白い髪で彼がアルビノを患った者である事が容易に分かった。オッドアイの次はアルビノか。ふと私の可愛い幼馴染を思い出しかけ首を振る。模擬戦とはいえ試験中。相手である私がしっかりしなければ、そう思い直して右手の剣で彼の血の剣を弾き飛ばす。本番はこれからだ。ルノは弾き飛ばされた剣からは目を背け頬を傷に触れ爪を立てる。頬からまた垂れる血が彼の手の中で蠢きまた剣を形作る。普通なら躊躇する自傷を何の躊躇いもなく行い武器を作るところを見ると、あまり平穏な日々を過ごしてきたわけではなさそうだ。聞いてる限り記憶喪失でもなさそうだし、もしかしたらとんでもないところから来ているのかもしれないわね。まぁ、そんなの周りの人達のせいで今更戦慄するようなものでもないけれど。ルノが次に生成したのは複数の短剣だ。先程より慣れた手つきで短剣を扱い投げてくるところを見ると、長剣よりも短剣を投げる方が得意なようだ。すばしっこい上に投げてくる短剣が的確で早い。もしやあっちの方なのではと思うほどには上手い、というか不味い。

「このままだと負けそうだな…」

今回、相手が魔法を使うタイプではないと思って近距離で攻め込んでいたら、いつの間にやら完全に防戦一方になってしまった。こちらから攻め込むことが出来なくなってしまっている。

「さて…と。そろそろ決着をつけたいのだけど…」

負けて終わる、なんてのは癪に障る。そんなことはしたくない。どんな手を使っても勝ちたい。うん、四の五の言ってられっか。

「…?」

私が両手を下ろし右の腕を元に戻すとルノがポカンとした様子で止まる。その瞬間を狙い私は地面に手を付け魔法を唱えた。

「グレーブストーン!!」

途端にルノの足元の地面が隆起し、ルノを打ち上げる。

「っ!!」

打ち上げられた本人は咄嗟の出来事に動くことができずにいる。勝利を確信した私はルノの元にジャンプし右腕をハンマーに変えた。

「油断大敵ね」

私は微笑みながら彼に声を掛け、そのままハンマーを振り下ろしルノを叩き落とした。

 

 

結果、試験は合格。私はルーニャにこっぴどく叱られることになった。まぁ、ムキになって本気を出してしまったのは反省だ。後悔はしていないけれど。

「なんて無茶をしてくれるのにゃ」

「止めてって言ったじゃない」

「あんなん止められるわけないのにゃ!!」

そりゃそうだろう、そうならないように手早く終わらせたのだから。後悔の色がない私の表情に頭を抱えるルーニャ余所に、この場所に慣れない彼の方を見る。こっぴどく怒られている私を見て申し訳なさそうにしながら縮こまってる彼からは、先程の戦闘力が微塵も感じられなかった。比較的温厚な少年だが、あんな能力を持っているのであれば普通でないのは確か。あまりしたくはないが、警戒しておくに越したことはない。

「何はともあれ、これからよろしくね。ルノくん」

「…!…はい。よろしく、です」

にこりと笑いかける私に少しだけ目をぱちくりとさせるも、嬉しそうに微笑みながら彼はそう答えた。