チビ・ゆきのルイージの小説外伝

ルイージの小説外伝の置き場

ルイージの小説外伝 短編2

-聖夜の宝石-

 

 

「ばっかじゃないの?」

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社内に、シルクのそんな声が響く。向けられた声は、主に目の前の僕にグッサリ刺さっていた。

「え、なに?ヘタレ?ヘタレなの?」

更に続く毒舌がまたもや僕に刺さり、なんとか持ち応えようと顔を上げるもシルクの冷たいを通り越して蔑んだようなその目に射抜かれた。もちろん、顔を下げた。

「たかがクリスマスに一緒に外食するだけなのになにをそんなに躊躇してるのよ。バカか、ヘタレか、童貞か」

三拍子、しっかりと僕に突き刺さった。

「まぁまぁ落ち着くにゃ。ルイージだって苦労したくて苦労してるわけじゃないのにゃ」

ルーニャのフォローに思わず僕は涙目になる。そう、苦労したくて苦労しているわけではない。ただ、クリスマスの夜に改まってスピネルを外食に誘うのがとても気恥ずかしいだけなのだ。そう、とても照れ臭い。いつものように誘えばいいだけの話なのだろうが、それがクリスマスの夜ともなるとなんというかこう…照れ臭いのだ。

「うん、でもね。ここまで童貞丸出しなのどうなの」

「でもクリスマスの夜に女の子を誘って外食ってちょっと勇気がいるにゃ」

「クリスマスの夜も正月の夜も盆の夜も変わんないわよ、同じ夜よ。なに、なんかする気なら私の右手が唸るわよ」

「落ち着くにゃ!?」

「落ち着いてくれ」

右手を刃物に変えてみせるシルクを思わずルーニャが取り押さえる。いや、もちろん何もする気はない。ありえない。ただ外食して、ツリーでも見て帰るだけだ。

「そんなことはしないから…」

「あぁ、する勇気もクソもなかったわね。失礼したわ」

トドメを刺された気がした。胸が苦しい。本当に槍でも刺さっているのかというぐらいにはグッサリと言葉が胸に刺さっている。これが言葉の暴力というものだろう。

「で、どーすんのよ。もう24日、昼。大体誘うならもっと早く誘うべきね。相談するにしても遅すぎ。今夜じゃない、聖夜」

シルクの言う通りだ。依頼にかまけて思考を放棄して数週間。放置しすぎた結果がこの始末。

「そろそろ泣けそうだ」

「やめて、大の男の泣き面とか需要ないし。ていうか聖夜に何も予定がない私たちにその相談をしてる時点で泣きたいのはこっちなのよ、リア充爆発しろ」

「シルク、いつもよりイライラしてると思ったらそういうことだったのにゃ」

返す言葉もない。というか返したら返したでなんと返ってくるか分からない。

「よう、なにしてんだ?」

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「あ、クソ兄貴」

「セルヴィ!よく来たのにゃ!」

三人で向かい合っている空間に、一人救世主が現れた。

「せ、セルヴィ…!!」

「え、どうしたルイージ。めっちゃ涙目じゃん」

オロオロとし始めたセルヴィはシルクやルーニャの顔色からとりあえず僕がピンチなんだということを察してくれたらしく、とりあえずハンカチを差し出してきてこれで涙を拭きなさいと言ってきた。セルヴィ…紳士だな…。ハンカチで涙を拭きながら、とりあえず事情を説明する。

「はーん、なるほど。確かに男には最大の難関だな」

セルヴィは苦笑しながらハンカチを受け取ると、首を傾げて少し考え込む。そして何かを閃くとニンマリと微笑んだ。

「ぶっつけ本番するか」

その言葉に首を傾げる僕達を横目にセルヴィは絶対に上手くいくという確信に満ちた顔で微笑んでいた。正直僕は、嫌な予感しかしなかった。

 

 

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「マジでこれでいいの?」

「行ける行ける」

「ちょっと心配だにゃ」

心配そうに草むらの影からルイージを見守る私達三人。その三人を横目に彼は慣れない空間での待ち合わせに体が固まっていた。兄貴が言うぶっつけ本番とは、夜にスピネルを外食場所まで呼び出しそのまま外食してしまえという事だった。まさに、ぶっつけ本番である。

「守備は大丈夫だよな?」

「お洒落して行くようにちゃんと言ったわよ。服もちゃんと選んであげたし」

あのあとルイージの家まで行きスピネルに待ち合わせ場所を伝えると同時に、スピネルを可愛らしくコーディネートしてあげた。ルイージルイージで少しはまともな格好をして来ているので、釣り合うようにはなっているはずだ。

「あ、来たのにゃ」

スピネルとルイージが待ち合わせ場所で出会い少しどぎまぎしながらも店内に入っていくのを確認し、私達は安堵のため息をついた。

その後しばらく経つと二人が店内から出てきた。どうやらそのあとも事がよく進んだらしく二人ともいい顔をしている。と、スピネルは先に大通りへ向かいルイージだけがこちらに向かってきた。

「…どうしたの?」

目の前まできたルイージに兄貴が思わず声をかける。ルイージは微笑むと箱を差し出してきた。

「おかげで何事もなく楽しめたから、お礼にね」

「もしかして…」

「ケーキにゃ!?」

ルーニャと兄貴が興味津々で箱を開けると、箱の中には三つの可愛らしいショートケーキが入っていた。わざわざ私達のために買ってきてくれたのだろう。

「いいの?」

「うん、お礼だよ。三人もこれを食べて楽しんでくれ」

「…気持ち悪」

ルイージは嬉しそうにそう言う。私も悪い気はしなかったので、照れ隠しの毒を放っておいた。

「じゃあ、スピネルが待ってるから」

ルイージはそう言うと手を振ってスピネルが行った方へと去っていく。私はケーキに舞い上がる年上二人の首根っことケーキの箱を掴んで、猫の手へと足を進ませる。

今年は、少しはマシな聖夜になりそうな気がした。

 

 

 

 

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雲の上、一人のヒゲの生えた青年がじっと下のほうを見つめている。その姿にクスリと笑ったとある天使が、青年に向かってわっ!と驚かし声を掛けた。青年はビックリして振り向くと、天使の笑顔に思わず安堵の表情を浮かべた。

「なにしてるんですか、ユキさん…」

「君こそ!弟君のデートを覗き見かい?」

「そんなつもりはないですけど…まぁ、気になるというか」

天使のクスクスと笑う声に少しだけバツの悪そうな顔をする青年。下界の様子が気になるのかチラチラと目線を逸らしている。

「まぁまぁ、大丈夫だよ彼らなら。ほら、私達もケーキ食べない?」

「いいんですか?」

「もち、奢りだよ」

「わー、ありがとうございます!」

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嬉しそうに微笑む青年に満足した天使は、箱に入ったショートケーキの一つを皿に乗せフォークと共に青年に渡す。自身の分も用意し顔を見合わせると、頂きます!と声を揃えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆HappyMerryX'mas☆