チビ・ゆきのルイージの小説外伝

ルイージの小説外伝の置き場

ルイージの小説外伝 2.5 穢れた世界の収束と再生編 第十一話

怒りに任せて威圧たっぷりに放った言葉に、周りの皆がその場で時を止めた。
こんなに殺気を放つのはいつぶりだろうか。
あぁ確か、アンダーグラウンドを追放された時もこんな感じで殺気を放ったっけな。

愛しき君よ、何故僕を見据え立ち塞がるのか。
もう貴女の意識は奥の彼方へ消えてしまったのか。

 


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少し、僕の話をしようか。

ずっと昔の事だ。
僕がまだ黒の魔法使いとしてアンダーグラウンドで暮らしていた頃、仲の良かった幼馴染みが居た。
彼女とは物心ついた時からずっと仲が良くって、毎日遊んでいたんだけれど。
彼女と違って僕は出来損ないだから。
親の関係で彼女とは段々疎遠になった。
出来損ないというには語弊があって、魔法なんてなんでも扱えたのだけれど。
そもそもどんな魔法でも扱えたのがおかしかったのだ。
中途半端に何でもかんでも使えて、彼女には器用と言われたけれど。
他の人にとっては出来損ないに等しかったのだ。

いつしか僕を毛嫌いする奴らは広がり、僕の居場所が亡くなってきた頃。
僕は初めて禁忌とされた狭間の魔法を使い、外の世界を見た。
その王国の美しく咲き乱れる花々の綺麗なこと!
映える綺麗な青空にさえずる小鳥たちの可愛らしい歌声。
どれも殺伐としたアンダーグラウンドにはないもの。
その王国は僕の心を惹き込み、次第に僕はその王国に何度も遊びに行くようになった。
だがある日狭間の魔法を使い外の世界に行っている事が両親にばれた。
焦る僕を見て呟くのはいつものセリフ。
「やはりお前は出来損ないのクソッタレだ」と、「産むんじゃなかった」と。
その内話は大事になり僕はアンダーグラウンドから狭間の世界へ、2度と戻ってこないようにと強力な魔法で醜い道化師の姿に変えられ放り出された。
最後まで聞こえていたのは、幼馴染みのなにかしらの必死の叫び声だった。

そこから色々あって時を越えて、ヒゲヒゲ君達にやらかして僕は死んで冥界に行ったのだけれど。
誰の慈悲かまだ死亡にはなっていなくって、幽体離脱状態で来てしまっていたらしく。
魔力と記憶を少しの間奪われ誰かに預けられ、もう1度彼らに会いに行ってその罪を償ってこいと言われた。

記憶を無くした僕はキノコ王国でルイルイ君に拾われ、ヒゲヒゲ君達と3人で暮らし始めた。
凄く楽しかったのを、覚えてる。
釣りをしたり、ゴルフをしたり、食事を共にしたり、料理したり、珈琲の淹れ方を教わったり。
何より記憶のある僕が誰よりも求めていた王国で念願の生活を手に入れたことが大きい。
充実していたし、僕も彼らに尽くした。
記憶を無くしても、彼らの事や償いの事は本能で覚えていたのだ。
彼らはそれに応えるように、地下世界から出来損ないの僕を今度こそ消そうとする輩から護ってくれた。

ある日、僕の幼馴染みだという女の人が家に訪ねてきた。
ヒゲヒゲ君達は警戒しながら彼女に応対する。
僕がひょっこり顔を出すと彼女は嬉しそうに僕に抱きついた。
彼女は、昔僕と共に遊んでいた幼馴染みその人だった。
そこで僕は、魔力の入った欠片を彼女に貰い記憶と共に復活して本当の姿にも戻った。
今までの優しさと、危険を冒してまで会いに来てくれた幼馴染み。
2つの事で柄にもなく僕は泣いてしまった。
オロオロするヒゲヒゲ君達にクスクスと微笑む彼女。
ただ優しくて暖かいその空間に癒され、僕は暫く泣いていた。

彼女は僕達と一通り話を終えると、僕にお幸せにと言って地下世界へと帰った。
曰く彼女は革命軍の一員らしい。
今の地下世界の現状を変えるべく頑張っているのだと言う。
君を巻き込みたくはないから、君はここで大人しく暮らしてなよ。と、彼女は僕にそう言って笑った。

言われた通りそこから僕は自分の力で幸せに暮らすべくキノコ街の一角で喫茶店を始めた。
珈琲の淹れ方やらなんやらは全てルイルイ君とルイルイ君のお嫁さんに教わって、何とか今も繁盛してる。
その間にランとも会ってドンパチして結局一緒に喫茶店で働いてたりと色々あったけど。
地下世界の号外新聞を見るまでは、平和に暮らしていた。

そう、それを見るまでは。

 

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手が震えている。
目の前の黒魔女に恐怖で怯えているんじゃない。
彼女を殺す事に、僕は戸惑いを感じてしまっているんだ。
この世界に赴く前、チビちゃんに言われたこと。

「彼女を殺す事は、即ちあの娘を殺す事と同一。でも、絶対あの娘はそれを望んでいるよ。だから、怯えないで。大丈夫、君には頼れる仲間がいっぱい居るんだから」

…………その通りだ。
彼女だってそれを望んでいるんだ。
だから僕は…オレはそれに答えなければいけない。

出来損ないの黒魔術師として。
君の幼馴染みとして。

 

 

出来損ないだった革命者として。

 

 

 

 


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彼は、地下世界の黒の魔法使いの産まれだ。
だが彼は黒の邪悪なる魔法だけではなく、白き聖なる魔法を使える素養も持ち合わせているんだよ。
故に彼は完璧な黒の魔法使いではないと、出来損ないと迫害されていた。

だがそれは違う。
彼は出来損ないじゃない。
逆なんだ。
彼は完璧で強く聡明な大魔法使いだったんだ。
そう彼は、あの地下世界を革命する為に産まれた救世主。

 

彼こそが…
この世界を変えることが出来る、
唯一無二の革命者なんだ。

 

 

 

やはり僕の出る幕はないかな…。
そう思って僕は魔力を増幅させるのをやめた。
疑問に思ったのだろうランやシルクが何をやっているんだと怪訝な顔をしてくる。

「いやね、任せましょうや。あの救世主様に」

そう、本物の英雄に。